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私はイギリスに来てから、かれこれ24年が経つ。そのうち20年はサラリーマンとして働いた。しかし、振り返ってみると、私の給料はあまり上がらなかったように思えた。だが、実際に数字を見てみると、なるほど、ある程度は納得できる気もする。
イギリスの国際的な賃金順位の推移を見ていると、それはどこか日本の低迷ぶりとよく似ていた。ゆっくりと、しかし確実に下がっていく。まるで、知らぬ間に少しずつ水位が上がり、気がついた時にはもう岸が遠のいているような、そんな感覚だ。
名目賃金の推移
国際的な給与水準をドルベースで見てみると、その変遷がはっきりと浮かび上がる。
1994年、日本のバブル崩壊直後日本は世界2位の高給与国だった。スイスに次ぐ4万8000ドル超。アメリカよりも上だった。イギリスは15位。
2002年、私がイギリスに来た頃日本の順位は8位まで落ち、イギリスは7位に浮上していた。私はこの頃、英ポンドの価値を改めて意識し始めた。
2008年、リーマンショック世界的な金融危機の中、スイスは圧倒的な強さを維持し、イギリスも9位につけた。一方、日本は18位まで下降した。
2021年、コロナショック後スイスの給与水準は10万ドルに迫り、アメリカは4位。イギリスは17位、日本は20位。円安の影響もあり、日本の順位はさらに下がっていた。
2024年、世界的なインフレの中でスイスはついに10万ドルを超え、アメリカは8万ドル台へ。イギリスは18位、日本は20位。だが、円換算の給与はようやく2002年の1.25倍になっている。
イギリスの賃金上昇、日本の停滞
イギリスと日本の給与推移を現地通貨で見てみると、興味深い事実が見えてくる。
イギリスの給与は1994年から2024年で約2倍になっている。
日本の給与は同じ期間で1.2倍程度の伸びにとどまっている。
言い換えれば、30年の間にイギリスはそれなりに成長し、日本はゆっくりとした歩みのままだった。
どこで働くべきか
私は2001年にイギリスに来た。その頃と比べ、私の給料は2021年までに1.5倍になった。しかし、住宅価格は3倍に跳ね上がった。この差は大きい。これが自分の給与が20年間それほど上がっていないような錯覚を起こすのである。そして私の20年間の給与の上がり方は、役職が上がりそれ相当に上がっただけで、賃金上昇の波を受けたわけではない。
一方、日本の給与はようやく2002年時点に比べて1.25倍になった。だが、それは25年目ぐらいから30年かけてようやく、というレベルだ。
こうして考えてみると、これからどこで働くかという選択は、決して簡単ではない。イギリスか、日本か。それともヨーロッパのどこか、あるいはオセアニアか。
もしかすると、働く場所よりも、どんな生き方をしたいのかのほうが、より本質的な問いなのかもしれない。少なくとも、私はそう思う。
名目賃金の国際比較(1994年~2024年)
年 | 順位 (スイス) | スイス (USD) | 為替 (USD/CHF) | 順位 (日本) | 日本 (USD) | 為替 (USD/JPY) | 順位 (アメリカ) | アメリカ (USD) | 順位 (イギリス) | イギリス (USD) | 為替 (USD/GBP) |
1994 | 1位 | 55,648 | 0.73 | 2位 | 48,161 | 102 | 11位 | 30,953 | 15位 | 27,501 | 1.53 |
2002 | 1位 | 51,845 | 0.65 | 8位 | 36,000 | 132 | 4位 | 41,164 | 7位 | 37,000 | 1.50 |
2008 | 1位 | 78,831 | 0.92 | 18位 | 43,083 | 103 | 13位 | 50,749 | 9位 | 53,521 | 1.86 |
2021 | 1位 | 98,086 | 1.09 | 20位 | 38,779 | 109 | 4位 | 75,193 | 17位 | 51,280 | 1.37 |
2024 | 1位 | 106,098 | 0.92 | 20位 | 39,350 | 150 | 4位 | 86,601 | 18位 | 47,700 | 1.36 |
名目賃金の推移(自国通貨ベース)
年 | 日本 (円) | イギリス (ポンド) |
1994 | 4,912,422円 | 17,975ポンド |
2002 | 4,752,000円 | 24,667ポンド |
2008 | 4,437,549円 | 28,775ポンド |
2021 | 4,226,911円 | 37,431ポンド |
2024 | 5,902,500円 | 35,074ポンド |
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から798日目を迎えた。(リンク⇨797日目の記事)』
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