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認知症の猫に苦渋の決断


ある日の午後、近所の友人が静かな声で言った。

「うちの猫、認知症がひどくてね。トイレの場所もわからなくなって、家のどこにでもしてしまうんだ。目もほとんど見えなくて……」

その声には、深い悩みとどうしようもない現実へのやるせなさがにじんでいた。その猫は15年前、彼が今の家に引っ越してきたときから家族の一員として暮らしていた。子供が生まれる前から一緒にいたその猫は、ただのペットではなく、家族そのものだったのだ。

だが、時間は容赦ない。認知症を患い、さらに重病を抱えた猫の姿を前にして、彼はある決断を下した。それは獣医のもとで安楽死をお願いするというものだった。

苦渋の決断

猫が認知症と診断されてからの1年間、友人は可能な限りの世話をしてきた。その努力は並大抵のものではなかった。夜中にトイレの失敗を片付けたり、体調が悪そうな猫をあやしたりと、彼と家族の生活はその猫を中心に回っていた。

しかし、猫の状態は悪化の一途をたどり、獣医の診断も芳しくなかった。そして何より、猫自身が苦しそうだったという。何も見えない目で宙を見つめ、時折小さく鳴くその姿を、友人はもう見ていられなかったのだ。

「本当に辛かったけど、あの子のためにはこれしかないと思った」と彼は言った。その声には、愛情と後悔と、少しの安堵が混ざっていた。

別れと静かな儀式

その猫はある静かな午後、眠るように息を引き取った。家族は猫が大好きだったおもちゃを一緒に持たせ、庭の片隅に埋めた。子供たちもその姿を見送り、小さな手を合わせて「天国で元気に遊んでね」とつぶやいたという。

動物との別れは、言葉では表現しきれないほどの寂しさを伴う。だが、同時にそれは、動物を飼う者にとって避けられない現実でもある。人間の寿命が、彼らよりもずっと長いのだから。

思い出とこれから

家に戻ると、猫がいた場所にぽっかりと空いたスペースができているのがわかる。その空間は、少しずつ思い出で満たされていくのだろう。そして、それは決して失われることはない。

友人は最後にこう言った。

「今は少し家が静かすぎて、落ち着かない。でも、あの子が苦しまなくてよかったと思うんだ。きっと天国で走り回っているはずだから。」

その言葉には、一つの命を見届けた人だけが持つ静かな決意が感じられた。


文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から777日目を迎えた。(リンク⇨776日目の記事)』


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