先月、友人の一人が亡くなった。ビルダーとして生きてきた彼は、がんという病に一年余りの闘病の末、静かに幕を下ろした。彼がその病を知らされたとき、すでに転移は進んでおり、残された時間は限られていた。幾度か手術を試みたものの、がんの進行の速さには抗えなかった。
時間との戦い
イギリスの医療制度――NHS(国民保険サービス)は無料で利用できることで知られている。だが、その裏には巨大なウェイティングリストが存在している。診察や手術の順番を待つ時間は、しばしば生命そのものを左右する。そして、その現実を友人の死を通して改めて実感することとなった。
実際に聞いた話では、がんが見つかったある人は、手術まで半年を待たねばならないという状況にあるそうだ。昨年の12月、彼はがんの診断を受け、1月には臓器摘出の必要性が告げられた。だが、実際の手術が予定されているのは5月だ。半年という月日。その間に抱える不安と恐怖は計り知れない。
誰が時間を手に入れるのか
一方で、王室のキャサリン妃が昨年がん治療を受けた際、手術から化学療法の終了までの流れは迅速だった。そして、秋には元気な姿を見せている。影響力や資源の違いが、命を守る速さにもつながる現実。もちろん、彼女の健康が回復したこと自体は喜ばしい。しかし、それとは別に、一般市民が直面する医療の遅延とその代償を考えずにはいられない。
医療の未来と不確実性
今のイギリスの医療現場では、診断の段階でAIと30分以上も会話し、それを経てようやく医師の予約を取るというプロセスが導入されつつある。効率化を目指したシステムだが、個々のケースの緊急性には十分対応できていない。
私立病院を選べば、比較的早く治療を受けられることもある。だが、それには膨大な費用がかかる。お金があれば命を救う可能性が高まり、なければ時間の猶予が奪われる。医療が無料で提供される国であっても、そこには深刻な格差が存在する。
祈ることしかできない時間
半年もの間、手術を待ちながら過ごす不安な日々。その精神的な負荷は、きっと想像を絶するものだろう。私の亡くなった友人も、そんな時間の中で心をすり減らしていったのかもしれない。
結局のところ、がんという病は「時間との戦い」である。発見が早ければ、適切な治療が施され、命が救われることも多い。しかし、医療制度や環境、そして個々の状況が、その「時間」を奪ってしまう。
誰もが平等に時間を与えられる世界が訪れることを願う。早期発見、早期治療、早期回復。その全てが叶う未来を信じて。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から786日目を迎えた。(リンク⇨785日目の記事)』
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