イギリスの住宅事情について語るなら、まずは中古住宅市場の活発さに触れなければならない。イギリスでは、取引される住宅の約8割が中古だと言われている。築100年のレンガ造りの家が普通に存在し、それがまた現役でしっかりと建ち続けている。地震がほとんどないという地理的条件がそれを可能にしているのだ。
そんな中古住宅を購入するとき、ほぼ間違いなく必要になるのがビルダーだ。日本でいうところの大工職人に相当するが、イギリスでは彼らを「ビルダー」と呼ぶ。だが、良いビルダーを見つけるのは容易ではない。誰もが友人知人に「どこか良いビルダーを知らないか」と聞いて回る。そして、その答えが得られるまでには、往々にして時間がかかる。
ポーランドから来たビルダー
私の家でも10数年前、一人のビルダーを見つけた。それはポーランド人の男性で、彼は住み込みで仕事を請け負い、朝7時から夜9時まで黙々と働くタイプだった。夕食は一緒に食べることが多く、いつしか2週間もすれば家の中は驚くほど見違えるものになった。
バスルーム、キッチン、各部屋のフローリング、壁紙、玄関――すべてが彼の手によって魔法のように生まれ変わった。私が仕事から帰ると、ひとつの部屋がまるで新築のように完成している。その姿は驚きと感謝で満ちていた。彼の手際の良さと情熱に、私はいつも感動していた。
その後も彼には何年かに一度、遠方からわざわざ来てもらい、住み込みで家のメンテナンスをお願いしていた。彼のおかげで、この家は常に清潔で居心地の良い空間として保たれている。
悲報と感謝
だが、先日、彼が癌のために亡くなったという知らせを受け取った。60代という若さだった。
この悲報に触れたとき、胸が締め付けられるような思いがした。家の中を見渡すと、あらゆる場所に彼の魂が刻み込まれているように感じられた。真剣に、そして誠実に働いている彼の姿が脳裏によみがえる。
彼は最近、セミリタイアをしてキャンピングカーを自作し、それでヨーロッパ中を旅するという夢を追いかけていた。そのキャンピングカーでポーランドに戻り、孫たちと触れ合うこともあったという。その話を聞いたとき、彼の人生が決して平坦ではなかったことを知りながらも、最後は自分の好きなことをして、家族に囲まれて旅立つことができたのだと、少し救われた気持ちになった。
彼の心と共に生きる
私の家の隅々に彼の手が作り上げたものが息づいている。それは単なる家具や内装ではなく、彼の心そのものだ。家に住むたびに彼と共に暮らしているような気さえする。そして、その温かさに包まれながら、私は彼に深い感謝を伝えたいと思う。
「長い間、本当にお疲れ様でした。そしてありがとう。どうか安らかにお眠りください。」
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から776日目を迎えた。(リンク⇨775日目の記事)』
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