
Xさんはサッカーが好きだった。それもただのサッカー好きではなく、ヨーロッパのプロリーグを追いかけるほどの熱心さだ。毎年3月、大きな休みを取ると、イギリス、スペイン、イタリアへと旅立ち、スタジアムの熱狂の渦に身を投じる。
今回のイギリス旅行では、北のマンチェスターから南のブライトンまで、いくつものスタジアムを巡った。マンチェスターとロンドンでは試合を観戦し、観客とともに歓声を上げ、ため息をついた。
プレミアリーグの試合を日本の旅行会社を通して観戦しようとすれば、チケット代だけで10万円を超えることも珍しくない。年々価格は高騰し、今ではサッカーはもはや「お金持ちのスポーツ」となりつつある。
「宝くじが当たったら……」
誰しもが一度は想像する類の夢だ。叶いそうもない願いを頭の中でふくらませ、そのひとときだけでも現実から解き放たれる。Xさんの場合、その夢は明快だった。
「イギリスに住んで、毎日サッカーを観て暮らしたい」
推しに時間とお金を注ぐ——それはごく自然な人間の欲求だろう。そして、その究極の形こそが、幸せというものなのかもしれない。
だが、現実はそう甘くない。働かずに収入を得られる人間はほんの一握りだ。推し活だけで生きていくのは、ほぼ不可能に近い。となれば、推し活と仕事のバランスを取りながら生きていくのが、現実的な落としどころなのだろう。多くの人がそうやって暮らしているように。
では、私の「推し」は何なのだろうか?
ふと考えてみるが、いまだに答えは見つからない。このまま何も見つからずに人生を終えてしまうのは、なんだかもったいない気がする。
Xさんのように夢中になれる何かを、早く見つけたい。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から839日目を迎えた。(リンク⇨838日目の記事)』
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