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「お前の代わりはいくらでもいるんだよ!」
そんな言葉を浴びせられながら金融の世界に足を踏み入れる若者は、ただそこにいるだけで誇りを感じる。ここで生き残らなければならない。何があっても、この席を誰にも譲るわけにはいかない。そう考えながら、彼らはひたすら上司に従順なイエスパーソンになる。
ロンドンという街は、そのほとんどをサービス業で成り立たせている。その中でも金融業は特に収入がいい。最低賃金でさえ、他の業種に比べればはるかに高い。ここでのし上がれば、家庭を持ち、ロンドンに家を買い、子供たちには最高の教育を受けさせ、私立病院で手厚い治療を受けることができる。年に二度の海外旅行だって、夢ではない。
そんな生活を夢見て、多くの人間がロンドンの金融業界に足を踏み入れる。そして、競争は激化し、職場内の小競り合いは絶えず増えていく。
— 同僚には情報を渡さない。— 自分の顧客は徹底的に囲い込む。— 他の部署の仕事には必要以上に関わらない。— 部長の機嫌を損ねるような提案は決してしない。
そんな駆け引きのなかで、前線に立つトレーダーたちは自分のこと以外、何も考えない。チームワークなど、ほとんど存在しない。隣のデスクの同僚が明日消えていたとしても、誰も驚かないし、気にもしない。それがロンドンの金融界の現実だ。
退職した人間が「首を切られた」のか、それとも「自主退社」したのかすらわからない。本人にとって、それがプラスだったのかマイナスだったのか、誰も関心を持たない。そもそも、お互いにまともな会話すら交わさないのだから。
イギリスでは転職はキャリアアップのための前向きな選択だ。同じ会社に五年以上も在籍していると、「なぜ?」と不審がられることさえある。特に金融界では、その傾向が顕著だ。
ここで求められるのは、ただ一つ—— どれだけ他人を蹴落とし、どれだけ自分のポジションを上げ、どれだけ収入を増やせるか。それだけがすべてであり、人間関係は必要とされない。
では、こんな場所で生き残るためには何が必要なのか?
答えはシンプルだ。冷静であること。感情を排除し、状況を正しく見極め、最適な一手を打ち続けること。
ロンドンで生きるというのは、つまるところ、そういうことなのだ。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から815日目を迎えた。(リンク⇨814日目の記事)』
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