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私は日々、長距離のアテンド業務に従事している。お客様を乗せて、一日に500キロ近くの距離を運転することも珍しくない。年間で計算すると、おそらく8万キロは運転しているだろう。毎日平均して3時間以上はハンドルを握っていることになる。そんな生活を続けていれば、当然ながらいろいろな事故に遭遇することになる。
特に多いのは、高速道路上での事故だ。ふと渋滞に差し掛かると、原因はたいてい対向車線で起きたクラッシュだったりする。事故を見ようと減速する車が連鎖的にブレーキを踏み、それがいつの間にか大渋滞を生む。対向車線では事故の影響で2車線が封鎖され、1車線に押し込まれた車の群れが、まるで河口に取り残された魚のように身動きできずにいる。5キロ、いやそれ以上の長さの渋滞が発生していることもある。
こんな場面に出くわすたびに、私は「自分の前の車が事故を起こしていなくてよかった」と安堵する。しかし、毎月20回以上も高速道路を走る身としては、そう何度も運良く切り抜けられるわけではない。時には、事故がまさに自分の前で起き、完全封鎖に巻き込まれることもある。ひどいときには3時間も足止めされ、高速道路を逆走して一番近い出口へと誘導されたことすらあった。それは年に一度あるかないかの出来事だが、2車線封鎖で1車線に誘導されるケースなら頻繁にある。30分の遅れなら、むしろ「マシな方」だと思えるくらいに。
目の前で起きる事故の衝撃は、言葉にしがたいものがある。つい先日も、交差点で赤信号を待っていたとき、恐ろしい場面を目撃した。交差点で右折しようとしていた日本車に、信号を無視したドイツ車が猛スピードで突っ込んだのだ。金属同士がぶつかる鈍い音とともに、日本車の脇腹がぐしゃりと凹む。ドイツ車のエアバッグは開き、運転手はフラフラとドアを開けて外に出た。幸いにも歩ける様子だったが、日本車の運転手は助手席側に横から突っ込まれた衝撃のせいか、動かずに下を向いたままだった。
こういう場面を目の当たりにすると、さすがに恐怖を感じる。もし自分がこの事故に巻き込まれていたら? そう想像すると、しばらくはハンドルを握る手が重くなる。運転すること自体に嫌悪感を抱く瞬間がある。
しかし、イギリスの郊外では車は生活必需品だ。ロンドン中心部のようにバスと電車だけで生きていくのは難しい。どれだけ事故が怖くても、運転しなければならない人は大勢いる。
安全運転を心がけることはできる。スピードを落とし、車間距離を取り、周囲の動きに気を配る。しかし、どれだけ慎重に運転していても、突っ込んでくる車に対してはなすすべがない。それが、車を運転するということの、どうしようもない現実なのだ。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から811日目を迎えた。(リンク⇨810日目の記事)』
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