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私の母は後期高齢者に差し掛かっているが、食事も運動もきちんとしているし、車を運転し、自立した生活を送っている。ありがたいことだ。
だが今年、彼女は4人いる孫のうち、2人の誕生日を忘れてしまった。それは、ちょうどその時期に別の孫の成人式があったからだ。
成人式に向けて、母は自分の髪型や衣装を考え、遠方まで車でのルートを調べ、お祝いにどれくらい包むべきかを悩んでいた。新年早々、気を遣うことが多すぎたのだろう。その結果、1月中旬に誕生日を迎えた2人の孫のことは、完全に彼女の頭から抜け落ちてしまった。
毎年、母は手作りの誕生日カードを孫たちに送っていた。しかし今年は何も届かず、誕生日当日にも連絡はなかった。仕方なく私が翌日電話をして、「誕生日だったよ」と伝えることになった。
そもそも、私が育った家庭では誕生日というものはそれほど重要視されていなかった。学校から帰ると、テーブルの上にケーキが置いてある。それを食べる。それでおしまい。父に至っては、一度も「誕生日おめでとう」と言ったことがなかったと思う。
そんな家庭環境で育った私だったが、イギリスに住むようになり、子供が生まれてから、誕生日というのは単なる通過点ではなく、本人や家族にとって大切な日なのだと学んだ。そして、私は母にもその価値観を少しずつ伝えてきた。
その影響か、母も孫が生まれてからは、毎年手作りの誕生日カードを送るようになった。今年は遅れてしまったが、彼女はそれを修正しようと必死になっている。
母が作る孫への誕生日カードは、もうすぐ我が家に届く。遅れてしまったことに対する申し訳なさと、それでもちゃんと気持ちを伝えようとする彼女の誠実さが、その封筒の中には詰まっているのだろう。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から797日目を迎えた。(リンク⇨796日目の記事)』
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