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銀行員で働き続けた末路



Xさんは1980年代に日本の銀行に入社した。当時、銀行で働くということは、一定の給料が約束され、家庭では奥さんが家事に専念するという生活スタイルが一般的だった。Xさんも例外ではなく、3人の子供に恵まれ、賑やかな幼少時代が繰り広げられていたが、彼はその日常に深く関わることはなかった。


朝、Xさんは子供たちがまだ寝ている間に家を出て、夜、家に戻ったときには彼らはすでに寝ていた。会社全体が終電を逃さないようにと動く中、Xさんは10年間、ただ子供たちの寝顔を見続ける生活を送っていた。あの頃は、残業なんて当たり前だった。会社に自分の身体も時間も全て捧げることが美徳とされていた。Xさんもそれに疑問を抱かず、ただ仕事に没頭していた。


ところが、40代半ばでXさんは銀行を退職し、メーカーへ転職することとなった。これまで全く関与できなかった子育てに少しでも向き合えるかと思いきや、その機会はほとんど訪れなかった。そして今、60代になったXさんは、セミリタイアを迎えたが、家庭内での立場は以前とは大きく変わってしまっている。


子供たちは成長し、父親に対して距離を取るようになった。Xさんに向き合うことは少なく、時には機嫌が悪いと罵声を浴びせることもある。親子関係がここまで複雑になってしまったのは、小さい頃に父親としてのサポートが欠けていたからではないか。そんな疑念がXさんの胸をよぎる。もしかすると、これまでの10年、20年の「寝顔を見るだけ」の日々が、今の関係を生んだのかもしれない。


現在、家の中ではXさんの発言権はほとんどなく、何かを決める際には奥さんや子供たちの意見が優先される。かつては家族を養うために一心に働いていたはずが、今ではその存在感が薄れてしまっている。


しかし、Xさんはそこで立ち止まらない。セミリタイア後、彼は新たな目標を見つけようとしている。海外旅行に出かけ、自分が行きたかった場所を訪れ、自分自身のために時間を使う。これまで会社に捧げてきた時間を取り戻すかのように、Xさんは自分の人生を再設計しようとしている。


60代を迎えたXさんの第2の人生は、まだ始まったばかりだ。今度は自分自身のために、自由に時間を使い、自分が本当にやりたいことを追い求める。会社に捧げた日々から解放されて、ようやく彼の新しい旅が始まろうとしている。


文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から688日目を迎えた。(リンク⇨687日目の記事)』


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