子供が家を出る――それは決して珍しいことではない。日本では毎年、約2万人の10代が家出をすると言われている。
家出の理由はさまざまだが、多くの場合、家の中で感じる不快感や、外の世界で得られる新しい人間関係の楽しさが影響しているようだ。10代の子供たちはまだ不完全な存在であり、大人からの指示やサポートを必要としている。そのサポートが欠けていると、彼らは不安定になり、心の拠り所を外の世界に求めることになる。
父と娘のすれ違い
ある家庭の話だ。仕事に追われる父親は、10代後半の娘とほとんど会話をしないまま日々を過ごしていた。父親は「娘のしつけは妻に任せている」と心の中で決め込んでいた。だから、娘の考えや感情に耳を傾けることもなく、ただただ距離が広がっていくばかりだった。
そんなある日、娘が家を出た。数日が過ぎても帰ってこない。家出だった。
その事実を知った父親は、妻に向かってこう言った。「お前がしっかりしつけをしないから、娘はこんなことになるんだ」。
この言葉には、父親としての責任を放棄した冷たい響きがあった。子育てを完全に他人事と捉えてしまっている。この瞬間、彼と娘の間にあったわずかな糸さえも、ぷつんと切れてしまったように思える。
本来なら、父親はこう言うべきだった。「私も娘と会話をする時間が少なくて、メンタル的なサポートができていなかった。娘が家出したのは、私にも責任があるんだ」と。
子育てはひとりでできるものではない
子育てはひとりでは負担が大きすぎる。もし親がふたりいるのであれば、二人三脚で子供の成長を支えるのが理想だ。片方にだけその責任を押し付けてしまえば、子供へのサポートに欠陥が生じる危険性が高まる。
特に10代は、自分のアイデンティティを模索する時期だ。親からの適切なサポートがなければ、子供は本当の自分をうまく見つけられないかもしれない。彼らは無理をしたり、嘘をついたりして自分を守ろうとする。そして気づけば、親子の間には埋められない溝ができてしまう。
家出の背景にあるもの
家を出るという行為には、単なる反抗や冒険心だけでなく、深い孤独や不安が隠れている場合もある。親がそれに気づけるかどうかは、子供との日々の接触にかかっている。そして、その接触を円滑にするためには、夫婦の協力が欠かせない。
夫婦が力を合わせて子供を育てること。それが次の世代を担う子供たちにとって、もっとも大切な土台となる。子供たちは、親が自分にどれだけ向き合ってくれるかを敏感に感じ取る。
子供が育つ家とは
子育ては難しいものだ。そして、その難しさの中に美しさがある。親として完全である必要はない。だが、手を抜いてはいけない部分もある。
家を出る子供に何が必要だったのかを考えることは、私たち自身の反省でもある。家族とは何か。親子の関係とはどうあるべきか。それを問い直しながら、次の世代へと希望を託すのだ。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から771日目を迎えた。(リンク⇨770日目の記事)』
最近の記事
おすすめの記事
Comments