11月のロンドンにおいて、晴天はちょっとした奇跡のようなものだ。Xさんはめったに姿を見せないそのわずかな日差しを受け、北ロンドンからふと思い立って南へ向かうことにした。Xさんは長い間ロンドン北部に根を張り、時々はもっと北へと向かい田舎での生活を夢見ていたという。
そのため、ロンドンの南部にはほとんど馴染みがなかった。南に行くにはテムズ川を越えなくてはならず、それはたいてい渋滞や時間のかかる移動を意味していた。しかし60歳以上のロンドン市民に配られる「+60 Oysterカード」を手にしたことで、Xさんはある日ついにロンドン南部へと足を伸ばすことを決心した。
ロンドン南部には地下鉄が少なく、かわりに地上電車が多い。主要な駅であるチャリングクロス、ヴィクトリア、ロンドンブリッジ、ウォータールーはテムズ川のそばに並んでいて、そこから特急に乗るとロンドンの最南端、ケント州の入り口まで20分ほどで行ける。ロンドン中心地から地下鉄を使って北ロンドンへ向かうよりも、意外と早く着くのだ。地上電車なら煤の漂う地下鉄とは違って空気もきれいで、外の景色を楽しみながらの移動は何よりのご褒美となる。さらにここ数十年で南部の街は少しずつ発展し、サラリーマンたちも住み始めたことで、静かだった街並みにも活気が戻りつつある。
Xさんはその+60 Oysterカードを使って南ロンドンをめぐり、その日の移動を無料で済ませた。
Freedom Passと+60 Oysterカードの違い
ロンドンには「Freedom Pass」というもう一つの高齢者向けの交通カードがある。+60 Oysterカードと同様に交通費の割引や無料乗車が可能だが、いくつかの違いがある。
1. Freedom Pass
対象年齢: おおよそ66歳以上(年金受給年齢に達した人)
利用範囲: ロンドン市内に加え、イングランド全土のバスも無料で利用可能
利用時間: ロンドン市内の交通機関は24時間使え、ナショナル・レールは平日9:30以降の利用が可能
料金: 無料で発行
2. +60 Oysterカード
対象年齢: 60歳以上
利用範囲: ロンドン市内に限られ、イングランド全土のバスは利用不可
利用時間: 平日9:00以降、土日祝日は終日利用可能
料金: 年間の発行費用が必要
主な違い
1. 対象年齢: +60 Oysterは60歳から利用でき、Freedom Passはおおよそ66歳から。
2. 利用範囲: Freedom Passはイングランド全土に対応し、+60 Oysterはロンドン市内限定。
3. 利用開始時間: +60 Oysterは平日9:00以降、Freedom Passは9:30以降。
こうした制度のおかげで、60歳を超えたロンドンの生活はまた新しい色を帯び始める。もしかすると、リタイア後にロンドンに住んでみたくなる理由の一つかもしれない。
文:はる『ロンドンでの失職、生き残りを綴ったブログ。小学生と中学生の子供を持つアラフィフサラリーマンが、ロンドンで長年働いた会社からいきなり(当日)の解雇通告を受け、その瞬間からオフィスにも戻れず退職。フリーランスで僅かな食費を稼ぐも、その後の就職活動が難航中。転身開始から721日目を迎えた。(リンク⇨720日目の記事)』
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